Quantcast
Channel: @ER×ICU 〜救急医の日常〜
Viewing all articles
Browse latest Browse all 299

妊婦加算凍結されてしもうた

$
0
0

先日、妊婦加算について書きました

 

タイムリーなことに、公開直後にこの加算が凍結されることが決まりました

 

厚労相によると

 

「凍結した上であり方を再度議論する」

 

という事ですが、永久凍結も視野に入れている様子で、なんともかんともという感じです

 

 

特に、自民党の小泉進次郎厚労部会長の発言は看過できないものがあります

 

妊婦加算凍結は

 

「国民の声が政治に響いた結果」

 

だという事です

 

 

妊婦加算について前向きな意見を表出した僕は非国民という事でしょうか……

 

 

少しずつ調整をかけて実現化した仕組みを、政治的圧力でいとも簡単に覆すことができるとしたら、それは逆に恐ろしいことなのではないかと思います

 

凍結した上であり方を再度議論するとは、議論のたりなかった物をホイホイと世の中にだしてきてるんでしょうかということになりますが、そんなことないでしょうと思うわけです

 

多数の意見をということですが、今回どのくらい多数の意見だったかということも分かりませんし、声が大きい人に単に迎合したという印象すら抱かせますよね・・・

 

 

 

サービスというのは、価値判断がしにくいものです

 

ただ普通に考えて、お金を払って得られるものの価値が同等であると感じれば、負担ではなく当然の対価を払っているという感覚になるでしょう

 

お金を払って得られるものの価値が払った金額よりも低いと思うなら負担に感じ、お金を払って得られるものの価値が払った金額よりも高いと思うなら得したと感じるものです

 

というわけで、今回妊婦加算凍結のニュースを聞いて、多くの医療者は妊婦に対するサービスや気使いというものは、お金を払うに値しないものだと言われているように感じたのではないかと思います

 

 

せっかくの機会なので、さらに妊婦に対する医療の充実を目指す方策を練るなどすれば、もっと質の高い医療を提供できるのではないかと思うので残念です

 

妊婦はお金は確かに払うかもしれませんが、より良い医療、安全を享受できるはずなので、決して損をしているわけではないはずなのです

 

 

金銭的負担を妊婦本人に求めるなという点についてはまた別に議論が必要なところですが、妊婦加算の凍結もしくは廃止を良しとするのであれば、他の加算はどうなんでしょうという疑問が個人的には残ります

 

 

 

例えば、今年同じく診療報酬改定で加わった小児抗菌薬適正使用支援加算

 

これは、小児科専任医師が、急性上気道感染症または急性下痢症で受診した初診患者(お子さんなので説明対象は保護者)に対し、検査結果などを基に抗菌薬を処方しない理由を説明して、内容を文書で提供した場合に算定することができる加算です

 

これは負担ですかね?

 

耐性菌を防ぐという長期的展望を見ても、必要性の乏しい薬剤を処方される患者の短期的展望を考えても、患者さん、ひいては社会の構成員がより安全に暮らせるようになる方向性の改定です

 

もちろん抗菌薬の適正使用を考えるのは医療者として当たり前のことだと僕は思いますし、こんな加算をつけないと抗菌薬の適正使用が推進されないとしたら悲しいことだとは思います

 

さらに細菌感染の見逃しにつながるような事になったら本末転倒だなとは思いますが、なんらか国の方針が明確になるような方向づけは必要なんだろうと考えます

 

これに

 

「抗菌薬も出さないのに、よく分からない単なる説明のための加算を取られた! 子ども税だ!!」

 

みたいな声が上がったら、こちらも即時凍結するんでしょうか?

 

 

 

こうした新しい制度について、立ち止まってしっかり考える事を否定するつもりはありませんので、考え続けたら良いと思います

 

必要性についてもう一度考え、お金の出どころをどうするかについてももう一度考え、その結果を周知徹底していただけたら良い機会になるとは思います

 

しかし大事なのはルールとプロセスだと思います

 

今回の流れは思いつきのようで恐怖を覚えますし、目に見えない大いなる力の存在を感じます

 

 

さてさてところで、小泉議員曰く

 

「国民の中でおかしいという声が挙がったときに、そのおかしいという声があがれば政治は動くかもしれない。そして動いたわけですよ」

 

とのことです

 

 

 

我々医療従事者、とくに医師は声を挙げなくてはならない状況に陥っています

 

最近、医師の働き方改革をめぐる時間外労働の上限について、厚労省は医師不足の地域などでは例外として年間1920時間(月の平均換算で160時間)まで認める方向で調整しているという報道がなされました

 

厚労省が定めた過労死基準(労災認定基準)を、自ら破ろうとしています

 

破ろうとしているというか、過労死基準は月80時間ですから、倍までOKというものすごいことをやろうとしています

 

 

医師は高速道路を200km/時でぶっ飛ばしてもOKだというくらい乱暴な基準です

 

少なくとも私の周囲の医師はこの件に対して怒り心頭で、「おかしい」と思っている声が多いです

 

「1920時間大賛成! 医師になったんだからぜひ長時間勤務をさせてもらおう!」

 

と推奨する声はあまり聞こえてきません

(やってますけどね・・・)

 

 

小泉進次郎厚労部会長におかれましては、国民の中で「おかしい」という声がまだ挙がっていない事項のような雰囲気もありますので、これは我々がしっかり声を挙げていかなくてはならない事態なのではないかと思います

 

この件についても、ある日突然ころっと方向性が変わったらそれはそれで恐怖ではありますが、国民のおかしいという気持ちがなんらかの変化を生み出せるのであれば、ぜひ働き盛りの医師の健康被害がなくなる方向に行ってほしいです

 

 

患者の安全は守る

自分の安全も守る

両方やらなければならないのが医師のつらいところです

 

しかし、ブチャラティよろしく覚悟を決めなくてはなりません

良い落としどころを見つけなくては

 

 

すぐに妙案はでませんが

 

論理的に了解可能で、より多くの人が「しゃーないね」と思える基準作りと、その後に丁寧な説明を続けることがやはり大事なのかと思います


Viewing all articles
Browse latest Browse all 299

Trending Articles