最近自分が狭量だなぁと思うのは
救急隊から開口一番に
「そちらにかかりつけの患者さんで・・・」
と言われた時にイラッときてしまうことです
どうしてイラッとするんだろうと考えたんですが、必要でない情報を一番最初に伝えているからなんだと思います
本来的には主訴やバイタルサインを知りたいのです
一番考えなくてはならない緊急度判定をないがしろにしているような感じを受けるのと、もう一つはその情報を僕に伝えないと僕が受け入れをしないような人間だと思われているようで非常に暗い気持ちになるからだと思います
救急隊がそう思っていようといまいと、僕がそう思い込んでいるだけなのでしょう
ちっせぇ人間ですね
ちっせぇ人間だとは思うのですが、よく話題に上るのでこれを一救急医がどう考えているのかということを示しておこうと思います
開口一番かかりつけである旨を伝えてくるのは
患者側が強く搬送先を希望している
とか
どうしても救急隊側が受け入れ先を確保したい気持ちがある
とか
本当にかかりつけ患者しか受け入れない病院がある
とか
いろんな背景事情があるかとは思いますが、基本的に救急搬送においてかかりつけかどうかという話はどうでもいい話だと思います
どうでもいいというと患者としては悲しい気持ちになるかもしれませんが、本来的にかかりつけ医というのは近隣にいて気軽に相談できる医師で、その人のトータルヘルスケア(生活習慣病の管理、健康相談、ワクチンプログラムの管理、介護福祉サービスとの連携、渡航時の相談など)をしている人のことを指します
救急を積極的に受け入れている大病院にそういう人はあまりいないのではないかと考えます
かかりつけという人がどんな人を指すか、実際のところ包括する範囲は広く、例えば
・過去に受診歴があるだけの人
・年一回通院している人
・とある疾患の治療のために定期受診している人
・定期受診はなく、よく救急搬送されている人
・その病院の誰かが主治医としてきちんとトータルヘルスケアをしている
全てこれまでかかりつけと言われて実際に搬送された例です
どのくらいかかりつけなのかわからないので、かかりつけと言われても困惑してしまいます
もちろん特定の疾患でいつも受診しているという場面はあるかと思いますが、よほど明らかにその疾患関連の合併症で急変していて、かつその疾患がとても稀なものであるとかいう場合でもない限り、いつもかかっている病院に行けないことで被る不利益はあまりないはずです
まぁとはいえ、救急車に乗って搬送先の希望を伝えてきた患者からの意見を無視するのも現場では難しい話かもしれません
僕もかかりつけである旨を伝えるなとは言いません
開口一番に言うようなことではない
と思っているだけです
ということで、本日はどのように伝えると良いのかということを考えてみます
プレゼンテーションで大事なことは
相手をどう動かすか
ということです
患者さんがかかりつけかどうかということを伝えると、病院側に何らかのアクションの変化を生み出すでしょうか?
たぶんそれは無いか、あってもわずかな話です
僕らは普段ホットラインを聞く時
・どこのスペースで受け入れるか
・どれだけマンパワーが必要になるか
・どんな医療機器を準備する必要があるか
・上記踏まえて現状受け入れ可能かどうかの総合判断
みたいなことを考えています
ホットラインの向こうの患者さんがかかりつけ(本来的なかかりつけ医であることはレアなので、多分通院加療しているという表現が妥当)かどうかで受け入れのプライオリティはそんなに変わらないし、来院後の対応もかわりません
世の中には通院加療中の患者しか救急で診ないというところも存在すると思いますが、そのような病院も、いくら通院加療中とはいえ自分の病院の対応能力を超えた救急患者さんの受け入れは難渋します
あまり救急を診たくないけど、かかりつけや通院中の人ならシャーないかということで動く医師もいるかもしれませんけれども、通常の救急に携わる医師はかかりつけかどうかとか受診歴があるかどうかでやる気が変動したりしないものです
(世の中には救急要請が来た時点で「かかりつけに送ってよ」と言ってしまう医師も多数いると思います。でも無責任ですよね。そういうことを言う時はかかりつけが受け入れられなかった時に自分が受ける心構えが必要であると考えます。)
ちなみに
通院加療中の病院に搬送して受けられる恩恵は
①過去のデータがあるので比較できるかもしれない
②主治医から診療を受けられるチャンスがあるかもしれない
③落ち着いた後のフォローアップがスムーズ
という3点です
ただし
過去のデータがなければ僕らは夜間でも他院に問い合わせて情報収集します
夜間休日は主治医が病院にいるパターンは少ないです
落ち着いていないから救急車を呼んでいるわけで、落ち着いた後のことを考える余裕はないはずなのです
もちろん患者の希望もあるかとは思いますけど、救急隊はプロフェッショナルとして患者さんの緊急度を判断して適切な病院選定をしようとしています
ちなみに患者の希望について大阪のプロトコルでは
患者本人、家族等の希望がある場合、病態が許す限り、かかりつけ医療機関等への搬送を優先する
とされています
病態が許す限りということなので、僕らが知りたいのは病態が許すかどうかということです
そして現場でそれをどのように判断したかということです
接触時点での患者の状態は〜〜で、搬送先の選定をするにあたり患者の意見を反映できる状態と判断して、当該医療機関への搬送が適切と考えた
というプロセスが大事になります
というわけで、僕が勝手に考える(本当に身勝手な意見ですよ。所属施設とか団体とか厚労省の方針とか行政の方針とかに関係無い勝手な意見ですよ。)適切な救急搬送における情報伝達の順序は
①搬入、収容依頼である旨の通達
②患者の年齢性別、生活状況など
③主訴、状態
④バイタルサイン
⑤症状の経過と現状
⑥観察結果
⑦既往、通院状況、内服状況、薬剤情報の有無
⑧付き添い、家族情報
⑨特記すべき背景情報
(アルコール薬物、精神疾患、意思決定者がいないなど)
⑩選定理由
というわけで
選定理由がかかりつけかどうかという事は最後の選定理由のところで述べていただければそれでいいです
もう一点
ただ単純に「患者や家族の希望です」
ということでの選定は良くないと個人的に思っています
救急隊はプロフェッショナルなので、患者や家族がどう考えたかではなく、救急隊としてどう判断したかの方が重要です
「そちらの○○科に通院中ということで、優先的に搬送を考えました」
「そちらに通院歴もあり、ご本人家族の希望も加味してそちらへの搬送が適当と判断して要請です」
などと言われると腑に落ちます
プロの判断ですから
まぁ
開口一番「そちらかかりつけの・・・」と言われても患者さんに不利益があるわけではないので、僕も今日から笑顔で対応しようと思います
日々反省