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Channel: @ER×ICU 〜救急医の日常〜
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骨盤矯正とか肩甲骨剥がしってなんなんだ

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巷でよく

 

「骨盤矯正」

 

って見るんですが

 

あれって何ですか!?

(・_・;)

 

 

整体とかカイロプラクティックとかでよく見る印象です

 

 

骨盤の形をどうにかするんですか?

 

骨盤の形がどうにかなるって、要するに骨折ですよね?

 

 

 

骨盤骨折の治療は、出血が激しいようであれば血管内治療による止血を行うほか、転位が大きければ骨盤の外固定を行うこともあります

 

これはシーツやサムスリングなどの簡易固定具を使ったものから、創外固定(皮膚の上から骨盤にスクリューを打ち込んで、外から固定具を使って骨をできる限り元の位置に戻して固定)まであります

 

 

これは優れものですよ

 

骨盤が適切な圧力で閉まるように設計されているので、初心者でも簡単に骨盤矯正できます

 

 

この道具使う時なんかも、骨が軋むような音がして結構えぐいのですが、こんなものを街角で気軽にやっていいものなんでしょうか?

 

不思議なことに、大変な骨盤矯正を街中で気軽にできるかのような広告が多いですよね

 

 

「骨盤矯正で姿勢スッキリ!」

 

とか

 

「1回で骨盤の歪みをなくす!」

 

とか

 

 

これね、どう贔屓目にみてもスッキリしませんし、歪んでいるのは解剖への理解であるとしか思えませんよ

 

 

骨盤の形を変えるって骨折させないと無理な話ですし、骨折後の管理にこっちは苦労しているわけですからね

 

一体彼らは僕らの骨盤をどうしたいのでしょうか? 

 

骨盤は腸骨と坐骨と恥骨(合わせて寛骨)と仙骨による構造物です

 

骨ですよ

骨!

 

あんたの骨はそんなに簡単に変形するのかと盛大にツッコミたいです

 

本当に骨盤を矯正しているとしたら骨折治療をしているのでもはや整体ではないですし、骨の形を変えたらそれは傷害行為です

 

 

 

おそらく

 

「骨盤矯正」って言っている人は骨盤の形を変えたいわけではないのだと思います

 

 

おそらく彼らが本来表現したかったのは、仙腸関節を支持する靭帯の緩みから可動性が高まり、周辺の筋肉や靭帯由来の疼痛を引き起こしますよということであったり、骨盤の角度が変わってしまうくらいの筋肉の緊張バランスを整えると痛みが改善するかもしれませんよということであったりなんだと思います

 

仙腸関節が数mm変動したり、骨盤部が姿勢によって前傾したり後傾したり左右に傾いたりという動きを伴うかもしれませんが、骨は骨です

 

骨盤部の角度についてはみなさん実感できますよね? 

 

まっすぐ立った時に左右の腸骨稜の高さが同じであれば骨盤は解剖学的に正しい位置にあるのかもしれませんが、どちらかの足に体重をかけてみると、腸骨稜の高さは左右で変わります

 

 

 

無意識のうちに左右どちらかの筋肉に負担をかけていると緊張が強くなり、骨盤がどちらかに傾いた状態が普通になってしまいます

 

この状態では筋肉に負担がかかり続けて疼痛が生じることにつながります

 

 

 

僕は整体師ではないので知りませんが、僕が思うに整体ではこれをまっすぐしましょうねとしているのでしょう

 

 

つまり

 

矯正しているのは骨盤ではなく筋肉です

 

 

骨盤周囲筋調整とでも言ってもらった方がいいかもしれません

 

 

いやそれでも本当に骨盤矯正が世界的に通用する処置なのだと言い張るのであれば、一度こちらを見てください

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Pelvic+correction

 

Pubmedで骨盤矯正を検索しています

 

 

 

Before

 

After

 

みたいな文献がたくさん見つかりますよ

 

骨盤や背骨の角度を変えると言うのはこういうことです

 

 

 

 

 

骨盤に限らず、あの界隈には恐ろしい表現が他にいくつもあります

 

例えば

 

「肩甲骨はがし」

 

 

肩甲骨を何から剥がそうというのでしょうか

 

周囲の支持組織を綺麗に剥ぎ取ることができるなら整形外科医の仕事は大変楽になることと思います

 

肩甲骨の周囲筋のストレッチをしたいならそのように言ってくれればいいのに

 

 

 

それから

 

「筋膜剥がし」

 

 

筋膜をストレッチするという事をさすようなのですが、この表現を初めて聞いたとき、僕は筋肉から筋膜を剥ぎ取るのかと思ってしまいました

 

おつかレーザー焼灼ぅ!筋膜ペリペリー!

(ゆっこママ)

 

って・・・そんなことをしたら、痛みがなくなるどころかメッチャ痛いはずです

 

たまに筋まで達するような傷を負って、本当に筋膜が剥がれているような人がいますが、かわいそうなことこの上ありません

 

 

 

 

 

どうしてこのようなおかしな表現がまかり通るのかなと思うのですが、誇大広告気味の宣伝と、その効果が変にマッチしてしまった結果なんですよね

 

なんでそんなところにみんなが足を運ぶのかというと

 

僕らが骨盤矯正なるものや肩甲骨剥がしなるもので得られる効果を提供できていないからなんだと思います

 

 

頭痛が起こるほどの肩こりをどうにもしてあげられなかったり、動けないほどの腰痛に対して鎮痛薬を処方するくらいのことしかできなかったり・・・

 

 

そりゃ、命に関わることではないので救急医にどうこうしろという方が無理な話なのですが・・・

 

 

腰痛で救急搬送された老婦人に

 

「良かったですよー!腎動脈閉塞や大動脈解離みたいな怖い病気じゃなかったです!いやー本当にめでたい!多分筋肉由来の痛みだから命には関わりません。鎮痛薬出しときますね。頑張ってくださいね!!」

 

 

ってやっても、この後どうしたらええねんってなっちゃいますよね

 

医師にお茶を濁され悶々とする中で、なんとなくインパクトのある単語に街で出会ったら

 

「うっわ、やっべ、そういうことだったのか!」

 

って変に納得して、さらにストレッチ受けて疼痛緩和されようものなら信じちゃいますよね

 

 

腰痛の原因は骨盤のゆがみだったのかーって

 

 

なんども言うけど

 

 

ゆがみません!!

 

 

 

こうしたことがないようにするためにも、ペインコントロールや適切な整形外科領域の外来診療をしっかり学ばなければいかんのですよね

 

たまに腸脛靭帯や大腿筋膜張筋がバキバキに張るなか腰痛を訴える人がいて、マッサージすると楽になったと言っていただけることもあるのですが……

 

こういったことは体系化された治療法ではないので介入しづらいですよね

 

ゆっくりマッサージしているような時間もないし……

 

 

ERって、軽症から重症まで、いろいろ考えることが多くて発見に満ち溢れています

 

まだまだ修行だなぁ


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