最近、りゅうちぇるというタレントがタトゥー(刺青)を入れたということで物議を醸しています
なんでタトゥーを入れただけのことなのに、他人がとやかく首をつっこむのか理解できませんが、今回はちょっとタトゥーについて考えてみようかと思います
タトゥーを入れている人が搬送されることはよくあることです
銭湯やプールみたいにお断りできませんし、お断りする理由もありませんので・・・
タトゥーは様々な文化の上に成り立ってきたものです
漁師が事故に遭ったときの個体識別に利用されたり、差別のために利用されたり、犯罪者の認識のために利用されたりしてきて、最近では美容目的に入れることもあります
いろんな歴史があって今の社会の感情を生んでいると思いますので、タトゥーそのものの是非についてとやかくいう気はありません
自主的にタトゥーを入れている人はそれぞれ、何か思うところがあって入れているのでしょう
ただ、忍耐強さを誇示するために入れていると思われる人が、些細な火傷で悶絶しているのを見ることもままありますから、現代においてタトゥーには特に意味はないのかなと思っています
僕にとってアレは、ただの模様です
りゅうちぇるがタトゥーを入れたことについては、医療従事者を中心に
「MRIが取れなくなるかもしれないのに軽率だ」
みたいな意見も挙がっていました
タトゥーを入れていると、MRIで熱傷を負ったり変色したりするなどとまことしやかに言われていますが、どうなんでしょうか
タトゥーに関連したMRIの有害事象については、1997年に最初の報告がなされています
腹部にタトゥーを入れていた人が、検査中に灼熱感を伴う疼痛を訴えたものです1)
このときに染料とMRIとの関係が調べられた結果、酸化鉄ベースの染料(黒と茶色が一般的)は磁場によって影響を受けるが、炭素、チタン、銅ベースの染料は影響を受けないことを示しています
熱を伴うものの、大きな有害事象は起こらないということで、この後は灼熱感に対しては冷却パックみたいなものを当てれば良いのではないかという方向で検査を行っていたようです
しかし、その後に報告されているものでは、Ⅱ度熱傷を負ったというものもあります2)
(Ⅱ度熱傷は水泡形成を伴うような比較的深いタイプの熱傷)
熱傷の重症度はまばらで、強い熱傷を起こした部分は、かなり高濃度の酸化鉄を含んでいたようです
酸化鉄の含有量によりけりなのかなとも思うのですが、実は染料の量や、柄の面積が広いことはあまり関係ないようで、アメフト選手のごく小さいタトゥーが熱を持ったという報告も出ています3)
軽い熱傷で発赤を伴っていたものの数時間で改善したようですが、検査中に痛みを伴ってきたら嫌なものでしょうね
こんな感じでちらほらとMRIによる有害事象の報告があるものの、症例報告自体が少なく、MRIを避けた方が良いのかということに関しては結論が難しいところです
頻度については、アートメイクされている患者の1.5%で熱感を伴ったという報告があります4)
頻度が高くなく、また重度の副反応ではないので、この文献ではMRI施行を避けるべきではないとしています
変色については報告がないので分かりません・・・
というわけで
タトゥーを入れているからといってMRIの施行を怖がりすぎることはない
と思いますが、染料の含有物質が分からない場合はⅡ度熱傷までは覚悟する必要があるかもしれません
熱傷を負う覚悟さえ決めれば「タトゥーが入っているからMRIを撮れないということはない」と現時点では結論しておきます
熱傷を起こす恐れについては、施行しないことのデメリットを考慮して、必要ならご本人とよくお話をして検査すればいいのではないかと思います
重大な後遺症を残す可能性があったり、生命予後に関わる分野では、MRIを避けるほうがナンセンスかもしれません
リスクを説明した上で施行する分には許されるでしょう
しかし例えば意識障害があり、本人に確認が取れないけど脳卒中を疑うような場合にどうするかですが、これもアイスパックや冷たいタオルなどで冷却しながらMRIを行うという工夫をしつつしのげば良いのかもしれません
それでもどうしても本人の確認なしには施行したくないということであれば、MRIを使わずに造影CTを用いて直接血管の途絶を調べるという代替案を用いるという方法も考えられます
何にせよ、タトゥーに対する適切な情報提供と、文書での説明が重要だと思います
個人的には、りゅうちぇるが搬送されても、必要ならMRIを使うし、必要ないならしない
それだけのことです
良かったね、りゅうちぇる
あとこれだけは言っておきます
あえてタトゥーをいれようと個人的には思わないしオススメもしていません
1) Kreidstein ML, et al. MRI interaction with tattoo pigments: case report, pathophysiology, and management. Plast Reconstr Surg. 1997 May; 99(6):1717-20.
2) Wagle WA, Smith M. Tattoo-induced skin burn during MR imaging. Am J Roentgenol. 2000 Jun; 174(6):1795.
3) Ross JR, Matava MJ. Tattoo-induced skin "burn" during magnetic resonance imaging in a professional football player: a case report. Sports Health. 2011 Sep;3(5):431-4.
4)Tope WD, Shellock FG. Magnetic resonance imaging and permanent cosmetics (tattoos): Survey of complications and adverse events. J Magn Reson Imag 2002;15:180-184.