冬が近づいてまいりました
咳で外来を受診する方が増えてくる時期です
咳といえば、最近当院で立て続けに結核菌が検出されています
NHK朝の連ドラでも内田有紀が結核になっていました
ERで診断がついた人もいれば、入院後に発覚したこともあり、改めて危機感を覚えています
もしかしたら今の時代、医療従事者でも結核の患者さんを見たことがないという人も結構いるかもしれません
結核はかぜや普通の肺炎の顔をしてやってくるので、気づいていないだけということも往々にしてあると思います
今回はそんな結核のお話です
実は、結核は昭和25年まで日本の死亡原因の1位でした
現在では先進諸国での罹患率は低下しておりますが、過去の病気とはいえません
日本においては平成28年(2016年)の
新規罹患が1万7625人で
結核による死亡数は1889人と
死因順位の28位です
(出典:厚生労働省『平成28年 結核登録者情報調査年報集計結果について』)
結構多いですよね
で、都道府県別の結核罹患率(人口10万対)を見ると、大阪府、東京都、愛知県の順に高く、日本を代表する大都市で蔓延しているという状況がうかがえます
中でも大阪市西成区は突出して罹患率が高くなっています
日本で最も結核罹患率が高い大阪府が22.0、その中で大阪市は32.8、さらに西成区は173.1と、群を抜いて高い数字です
(出典:大阪市『大阪市の結核(結核登録者情報調査年報集計結果)』)
なお、この辺りに星野リゾートの宿泊施設ができるという話があります
訪日観光客を安全に迎えられる環境にしていかねばなりません
ちなみに世界では、年間8700万人が結核に新たに罹患しており、年間1400万人が結核で死亡しています
アフリカの多くの国では、罹患率が軒並み150以上という由々しき状況です
この由々しき状況が西成区でも同程度に起きているというのがつらいところです
(毎年着実に罹患率は低下しておりますが)
大阪で結核の罹患率が高いのは確かですが、「大阪は特別」などと思わないことが重要であると考えます
結核菌はマクロファージの中で増殖できる能力を持っており、貪食分解しきれないので、マクロファージごとT細胞に封じ込めます
この状態で免疫が低下すると、封じ込めているはずの菌が増殖を始めて発症してしまいます
いわゆる結核二次感染というやつです
日本の過去の結核の状況を考慮すると、高齢者の多くは既に結核に曝露されており、高齢化とともに免疫低下していつ発症してもおかしくない状況です
女性を見たら妊娠を疑えという格言がありますが、人を見たら結核を疑えといっても過言ではないような気がします
いや、過言か……
ともかく、いつでも頭に置きつつ、それらしい人では必ず疑ってかかる姿勢は大事です
肺結核を疑う症状としては、慢性咳、喀痰、食欲低下、体重減少、発熱、盗汗、血痰などが挙げられます
ただ、高齢者だとそもそも食欲低下していたり誤嚥していたりという背景があり、症状がマスクされてしまうので要注意です
肺炎らしい症状を呈しているものの、亜急性~慢性の経過であったり、抗菌薬に反応が乏しかったりと、普通と異なる経過の時には積極的に疑ってほしいです
レボフロキサシンなどの一部ニューキノロンは結核にちょっとだけ効くので、発見を遅らせ死亡率をあげますので、これも注意が必要です
なお、特徴的なX線画像所見としてよく言われる「肺尖部の空洞形成」ですが、実は上肺野に病変を呈するのは全体の70%にも満たないとされます
多彩なレントゲン所見を呈するので胸部レントゲンだけでは肺結核は否定できないと考えておいた方がいいです
「結核を思わせる病歴+なんらかの画像所見」
というかなり広範囲な状況から疑い、細菌検査で確定していく、砂金取りのような診断アプローチをするしかないわけです
肺炎を疑って痰のグラム染色をした際に、明らかな起炎菌を指摘できないような場合には抗酸菌染色をしておくと良いです
なので、大前提として肺炎を疑うような場合には必ず喀痰のグラム染色をするといった文化を醸成しなくてはならんなと思っています
自施設で抗酸菌染色をやるというのはなかなかハードルが高いかもしれませんが、24時間体制でできるようにしているという施設も珍しくないでしょう
積極的に研修医が染めている施設もあるかもしれません
非常に良いことなのですが、エアロゾル発生の危険性を考慮すると、強く結核を疑うような場合は特に、安全キャビネット内で染色するのが望ましいと考えますので、ここは注意が必要かもしれません
自分の体を守りつつ、患者さんの体を守るのが大事です