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Channel: @ER×ICU 〜救急医の日常〜
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バスの運転手さんに頭部MRIをやってもあまり意味はない

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バスの運転手が病気や体調不良などで運転中に意識を失うケースが全国各地で相次ぐ中、都営バスのすべての運転手を対象にMRIを使った脳の検査を義務づけることになったということです

 

2000人余りのすべての運転手を対象に、今年度から「脳MRI健診」を3年に1度、受けることを義務づけるんですって

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181113/k10011708201000.html

 

 

一瞬「虚構新聞」のネタかと思うくらいに意味不明

 

新世紀エヴァンゲリオン第一話で、攻めてくる使徒に対して効果のないミサイルを撃ち続ける国連軍に向かって「税金の無駄遣いだな」と吐き捨てた冬月先生よろしく、僕も敢えて言わせてもらおうかと思います

 

 

税金の無駄遣いです

 

 

 

どうして税金の無駄遣いなのか

 

とりあえず失神について知っておきましょう

 

失神は

 

「一過性の意識消失の結果、姿勢が保持できなくなり、かつ自然に、また完全に意識の回復が見られること」

 

と失神の診断・治療ガイドラインに定義されています

 

意識障害のうち、一過性で速やかに自然回復するものを失神と呼んでいるわけです

 

 

英語ではsyncope(シンコピー)と言いますが、もともとギリシャ後のwithというような意味をもつ「syn」と、cut、strikeというような意味をもつ「koptein」が合わさった言葉

 

原因は脳全体の一過性の低灌流によるもので、脳循環が6-8秒中断すると完全に意識消失をするとされます

 

 

ちょっと前に中学生の間で失神ゲームというのが流行りました

 

両側の頚動脈を締め上げることで、脳循環を低下させて失神させるという遊びです

遊びになっておりませんのでやめてほしいです

 

セックスの最中にこれをやる人たちもいるみたいですが、これもおすすめできません

 

 

 

よく意識消失したときに「TIAだ」なんて言う人がいます

 

TIAはtransient ischemic attack(一過性脳虚血発作)

 

脳、脊髄または網膜の局所的虚血による一時的な神経学的機能障害で急性梗塞を伴わないものを指します

 

はい、あくまでも局所的虚血で全脳虚血ではありません

 

それではどこが虚血に陥ったらTIAで失神するかということなのですが、毛様体賦活系が意識を維持しているわけです

 

脳幹部の毛様体がやられてしまったら意識が途絶えてしまうので、脳底動脈の一過性虚血であれば、意識消失してもおかしくないということになります

 

脳底動脈解離とか、脳底動脈の攣縮による虚血とかというものを考えたくなります

(とても頻度が低いと思います)

 

 

 

では失神の原因はなんでしょうかということですが、失神は大きく3つに分けられます

 ①起立性低血圧失神

 ②血管迷走神経性(神経調節性)失神

 ③心原性失神

 

起立性低血圧は、自律神経の調整がうまくいかないもの(パーキンソン病や自律神経失調症、糖尿病、脊髄損傷など)、薬剤性、循環血液量減少が挙げられ、とくに循環血液量減少は、背景に消化管出血や子宮外妊娠などの恐ろしい救急疾患が隠れている可能性も考えなくてはならないので、慎重に診察を行なっています

 

血管迷走神経性失神は、血管迷走神経反射、状況失神、頚動脈洞症候群(頚動脈の圧受容体を刺激して、血圧を下げてしまう)などが挙げられます

 

食事、排便、排尿、吹奏楽などで起こることが知られており、調節が難しい高齢者などでよく見られます

 

で、心原性失神ですが、これは不整脈を原因とするもの、弁膜症や心筋虚血などの器質的疾患を伴うもの、あと心臓ではないですが、肺動脈塞栓や大動脈解離といった大血管病変が挙げられます

 

 

どれが一番やばいですかということなのですが、当然、心原性がもっともやばいやつで、心原性神は突然死のリスクを高めると言われております

 

 

心原性失神を見つけるためのスコアリングシステムに、OESILリスクスコア(Osservatorio Epidemiologico sulla Sincope nel Lazio)というものがありますが、これは最もリスクが高い群で一年後の死亡率が57.1%とされます

 

細木数子に言われなくても

半分以上死にます

 

Serrano LA, et al. Accuracy and quality of clinical decision rules for syncope in the emergency department: a systematic review and meta-analysis. Ann Emerg Med. 2010 Oct;56(4):362-373. 

 

/Users/HiromasaYakushijiPro/Desktop/図1.png

 

 

 

失神の原因頻度を明らかにするのは原因が特定しきれないこともあり非常に難しいところですが、前述のガイドラインで挙げられている数字を引用すると

 

心原性5-37%

血管迷走神経性35-65%

起立性低血圧3-24%

原因不明5-41%

 

ということで幅がありますが、結構心原性失神もいらっしゃいます

 

あと、意識消失した患者さんを前にしたら

失神ではない一過性意識消失

についても考えなくてはなりませんが

 

これは

 

てんかん

低血糖

低酸素

中毒

TIA

 

などが鑑別に上がります

 

意識消失した人を前にして、とにかく脳神経外科医を呼ぼうとか、頭部CTやMRIをとらなきゃと思わなくても良いわけです

 

一つ、脳底動脈が詰まったけど再開通したというようなやばい場合にはなんとしてでも脳神経外科医に相談したいところです

(いつもありがとうございます)

 

 

 

失神に関していえば、頭部MRIで原因が判明するものはほぼないのではないかと思われます

 

もちろん、軽度のくも膜下出血を起こした瞬間に失神する人もいるかもしれないので、動脈瘤を発見しておくという意味においては有用かもしれませんが、積極的に治療しにくい大きさの動脈瘤が偶発的に見つかってしまった人などはどうするんでしょうね・・・

 

 

あとはMRIで脳腫瘍や外傷後変化など、てんかん発作を起こすかもしれないという病変が発見される可能性は多少考えられますが、それでどうするんですか?

 

過去の無症候性の病変があっても仕事取り上げるんですか?

 

 

本当に失神しないようにということであれば、迷走神経性失神を起こさないようによく食べてよく寝てストレスをためず体調を整えるであるとか(てんかん閾値を下げないためにも良い)、消化管出血に早期に気づくために日々のウンコを観察するであるとか、ホルター心電図で不整脈を早期認知するであるとかというアプローチが良いのではないかと思います

 

相談すべきは循環器内科のDr.ですよね

(本当にいつもありがとうございます)

 

睡眠時無呼吸を調べるための検診なんかも有用かと思いますが、MRIで睡眠時無呼吸はわかりません

 

 

いやいや、やっぱり頭部MRIだよと思う人がいらっしゃったなら、東京都の方針を全力で応援してあげてください


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