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Channel: @ER×ICU 〜救急医の日常〜
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コカインの話

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ピエール瀧氏がコカイン使用で逮捕されました

衝撃です

 

当初、尿検査でコカインが陽性になったと報じられておりました

 

普段、僕らも中毒診療において尿中乱用薬物推定キットを使用することがありますが、一般的に感度と特異度が低いことが知られています

 

例えば、麻黄などに含まれるエフェドリンが原因でアンフェタミンが陽性に出てしまうことや、鎮咳薬のジヒドロコデインで麻薬が陽性に出てしまうことがあります

 

その他、新しいタイプの麻薬やベンゾジアゼピンは感度が低いことが知られており、偽陰性として見逃してしまう可能性を秘めています

 

 

以前、チャゲ&飛鳥の飛鳥氏の尿から覚せい剤の反応が出たというニュースを見たときは、何かの間違いかもしれないし、正確な検査を待つのが良いのではないかと思いながらテレビを見ていました

 

ただ、大麻やコカインは尿中乱用薬物推定キットの正確性が高いので、ピエール瀧氏の件をニュースで聞いたときは、あぁ本当なのかなと思わせるものがありました

 

何かの間違いであって欲しいと願ったのですが、早々に本人も認めておりましたので、間違いではないようです・・・

 

 

 

コカインって、日本ではあまり蔓延していないので馴染みがない薬物かもしれません

 

しかし、実は局所麻酔薬として初めて手術に用いられた薬品はコカインです

 

古代ペルー人のミイラに穿頭術を受けた跡があることや、コカの葉が墓から見つかっていることなどから、古代から

局所麻酔薬としてコカの葉を用いていたのではないかといわれています

 

乳腺の手術で有名な19世紀の外科医ウィリアム・スチュワート・ハルステッドは、コカインを用いた伝達麻酔を始めたことでも知られています

 

残念ながら、ハルステッドは自分自身にもコカインを注射していたので、コカイン中毒になっています

 

 

 

一般的にはコカ・コーラの名称の由来がコカの葉からきているという話が有名ですね

 

元々は、19世紀にフランスの化学者アンジェロ・マリアーニがワインにコカを入れた「Vin Mariani」を販売し、ヨーロッパ中に広がったという経緯がありました

 

これがアメリカにも輸出され、エジソンも飲んでいたそうです

 

その後、米国の薬剤師ジョン・ペンバートンが同様の飲み物を開発し、米国でアルコールが禁止されたのをきっかけに、ノンアルコールのコカドリンクを販売したことで現コカ・コーラができました

 

炭酸で割ったらさらに美味しいということで現在のコカ・コーラの原型が出来上がったのです。コカインは大衆の間に爆発的に広がっていたものと思われます

 

ちなみにシャーロックホームズもコカインやってました

 

コナンくんもペロリとしただけで麻薬の味がわかるらしいので探偵はやべーです

 

 

 

話をもどして、19世紀末には中毒性や有害性が指摘され始め、20世紀初頭にはコカイン禁止令ができ、コカインの入っていないコカ・コーラが作られました

 

局所麻酔も、プロカインが発明されたことでより安全性を高めていくことになります

 

現在でもよく使用されるリドカイン(商キシロカイン他)は1942年に発明されました。これらの薬剤の語尾につく「〜カイン」の由来はコカインというわけです

 



コカインは中枢神経作用により気分の高揚感が得られる一方、心負荷をかけたり、血管に負荷をかけたりするので、脳卒中や不整脈、心不全リスクが高まります


映画「スタンド・バイ・ミー」で有名なリバー・フェニックスが、ヘロインやコカインの過剰摂取で心不全を起こし、23歳で亡くなったのは衝撃的な出来事だったと思います


米国ではコカインがかなりはびこっており、毎年1万人以上が亡くなっているようですが、日本ではあまり見かけません


僕もコカイン中毒の人を診療したことがありません



警察庁などが報告している薬物押収量を見ても、覚せい剤が圧倒的に多く、コカインは3番目か4番目といったところです(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000168589.pdf)



コカインで検挙される人は増加傾向ですが、それでも2017年で177人


うち100人は暴力団関係者や外国人となっています(https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku03/h29.sotaijousei.pdf)


日本は比較的コカインのコントロールができている国といえるかもしれません


ピエール氏はそんな中をかいくぐってコカインを入手していたわけですので、余計につらいのです

 



最近は彼をバッシングするばかりではなく、社会でどうやって再発予防に導くかという方向の論調も目立ってきた様にも思います



コカインに限らず、薬物中毒や依存状態を発見するきっかけがERにあることも少なくないです



シン・ゴジラの彼のセリフに「国民を守るのが我々の仕事だ、攻撃だけが華じゃない」というものがありました


懲罰的な視点ではなく、より良い社会を目指すような視点で中毒診療にあたりたいです




社会的制裁という言葉がありますが、目指すべきは社会復帰です


迷惑かけた人たちに自分で償ってもらえるようにしつつ、同じような人が生まれないような活動をして欲しいです


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