先日、面白い論文が出ました
敗血症性ショックで乳酸値を指標にした初期蘇生輸液をするか、CRT(Capillary Refilling Time:末梢血管再灌流時間)を指標にした初期蘇生輸液をするかを比較したランダム化対照試験(RCT)です
ショック時、ある程度の輸液をすることは必要ですが、近年は過剰輸液が問題視されてきています
敗血症性ショックで輸液への反応を見る際の指標は、乳酸値を見ることが一般的になってきました
しかし、乳酸濃度の上昇が、末梢の血流低下を直接的に反映するわけではありません
嫌気性代謝で乳酸が産生されるのは確かですが、臓器不全によりクリアランスが落ちていれば数値が低下するのに時間がかかります
何かしら頼りになる指標はないかということで、お金もかからず数秒で評価可能(数秒間爪を抑えて、白く変化したのが赤く戻るまでの時間を見るだけ)なCRTを用いようとなったわけです(CRTのRCTってややこしい)
Glenn Hernández, et al.
Effect of a Resuscitation Strategy Targeting Peripheral Perfusion Status vs Serum Lactate Levels on 28-Day Mortality Among Patients With Septic Shock;The ANDROMEDA-SHOCK Randomized Clinical Trial.
このRCTは、その名も
「ANDROMEDA-SHOCK RCT」
友人がTwitterでつぶやいておりましたが、この「アンドロメダ」がどこから来たのかは謎です
よくあるような、研究名の頭文字から取ったわけでもなさそうです
初期蘇生輸液の研究で有名な
ProCESS
(Protocolized Care for Early Septic Shock)
や
ARISE
(Australasian Resuscitation in Sepsis Evaluation)
や
ProMISE
(Protocolised Management in Sepsis)
は、研究名の文字列の頭文字や付近の文字を取って、それなりに意味の通る単語にしたというものでした
ANDROMEDAにも何らかの意味がありそうなのですが、どこを調べても書いてありません
アンドロメダの神話にも敗血症が登場するわけではないし、なんとも不思議です
アンドロメダといえば、夜空を眺めると肉眼で確認できる銀河としても有名です
我々の所属する天の川銀河よりも大きく、肉眼ではややぼやっとした光で、双眼鏡でもあれば楕円形の光が確認できます
実は、僕の父は天体写真を撮るのが趣味です
望遠鏡を見せてもらうと、本当にきれいな銀河が見えます
上手に写真をとると渦巻き状の銀河が確認できます
撮影:私の父親(2018年11月4日)
ぜひ皆さんにもアンドロメダを見ていただきたいのですが、アンドロメダ座は秋の星座なので、半年後に覚えていたら空を眺めてみてください……
半年後にコメントしてくれる人がいたら喜びます
というわけでアンドロメダに気が取られて話がかなり飛んでしまいましたが、本題に戻します
研究の名前はいったん置いときます
難しい話はいいよという人は最後だけ読んでください
このRCTは、南米5カ国における28のICUで、Sepsis3基準の敗血症性ショックの患者424人を対象に行われました
患者背景は両群に差はなく、年齢62歳、男女半々、ICU入室患者の重症度評価の指標であるAPACHEIIは22、SOFAスコア9.7、敗血症の原因は腹腔内感染と肺炎が30%ずつで、尿路感染が20%という集団です
日本の敗血症性ショックの原因とたぶんさほど変わらない集団で、重症度はまぁまぁという感じです
敗血症の診断から抗菌薬投与までに要した時間は1.5~2時間で、ショックの基準を満たしてから1時間程度でランダム化が行われました
初期輸液は25~30mL/kg程度
介入期間は、そこからの8時間です
CRTは、通常の外傷初期診療では5秒間爪を押さえて、2秒以内に血流が戻るかを確認します
この研究では、右手の親指の腹にスライドグラスを押し付け、皮膚が白くなった状態で10秒間待ちます
計測器でrefill timeを測定し、3秒以上を異常としています
普段の経験と違うので注意です
で、CRTは30分おきに、乳酸は2時間おきに測定したということです
目標はCRT指標群ではCRTの正常化、乳酸指標群では乳酸の正常化または2時間ごとに20%の減少で、これを達成すべく治療継続です
介入方法が少しややこしいのですが(下図参照)
まずは輸液反応性を評価
輸液反応性があれば、目標が達成されるか、CVP(中心静脈圧)が上限に達するか、輸液反応性がなくなるまで500mLの晶質液を30分ごとに投与します
もともと高血圧がある患者で目標に到達できなかった場合、ノルアドレナリンを用いてMAP(平均動脈圧)80~85mmHgを目標に血圧を上げ、CRTと乳酸を1~2時間で評価し、目標に到達すればその血圧を維持
目標に到達しなければノルアドレナリンを減量して低用量のドブタミンかミルリノンを投与し、それぞれの評価方法で1~2時間後に評価です
それでも目標に到達しない、もしくは安全性の問題が出てきたら、ドブタミンやミルリノンは中止
というプロトコルで介入をしています
結果
最初の8時間の輸液量はCRT評価群2359mL vs.乳酸評価群2767mLで、CRT評価群の方が400mLほど少なくて済んでいます(P=0.01)
28日死亡はCRT評価群34.9% vs. 乳酸評価群43.4%(ハザード比0.75、95%信頼区間0.55-1.02、P=0.06)とCRT評価群の方が低いですが、有意差は認められませんでした
そのほか、副次評価項目である90日死亡、人工呼吸期間、腎代替療法期間、血管収縮薬使用期間にも差がありませんでした
ただし、72時間後のSOFAスコアはCRT評価群の方が低いということになっています
乳酸を参考にしながら輸液を行うのと、CRTを参考にしながら輸液を行うのでは大きな差がない
ということで、ネガティブスタディーのように著者は結論づけていますが、僕はポジティブな結果として受け取るべきだと思います
CRTは侵襲度の高くない介入ですし、乳酸より鋭敏に循環血漿量を反映してくれるかもしれません
輸液量に悩んだらベッドサイドで指を押してみましょう