5月10日付の共同通信のニュースで、次のような発信がありました。
「医師の姫路市長がマッサージ救命 イベント出演の男性が意識不明に」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190510-00000246-kyodonews-soci
これだけみるとなんのことかさっぱりわかりません
マッサージ救命なる術を施したら男性が意識不明になったのか、時系列も目的語もぐちゃぐちゃです
日本中のマスメディアにニュースを発信している団体が配信するニュースのタイトルがこんな状態でいいのかとため息がでるわけですが、まぁそこは今後に期待
本題に戻ると、姫路城でのイベントに出席していた男性が突然倒れ、居合わせた医師である姫路市長がすぐに一次救命処置を行って救われたという出来事があったようです
こういうニュースは本当に気持ちが明るくなります
なかなか医師であっても院外でとっさに動くことは難しいと思いますが、あっぱれです
全ての行政職員にこうした処置が行き渡るきっかけになったら素晴らしいなと思います
それはそれで、マッサージ救命という言葉に一人歩きして欲しくないので、ちょっと心臓マッサージについて考えてみましょう
マッサージは古代エジプトの壁画にも残っているくらい歴史の古い行為です
体の一部を揉んで、健康になんらかの効果を期待するものです
(エジプトのサッカラにある「医師の墓」として知られるアンクマホルの墓の壁画)
心臓マッサージは言葉だけを捉えると、心臓を揉むとか撫でるとかという意味合いになりそうなのですが、いわゆる心臓マッサージは胸骨圧迫と言って人間の胸をひたすら押すような動作です
どうやってこの言葉はできたのでしょうか?
実は、もともと蘇生のための手技は言葉のまま心臓マッサージだったのです
まさか心臓を揉み揉みするのかというと、そのまさかです
開胸して直接心臓を揉んでポンプ機能を補助しようというわけで、1800年代までこれが普通だったのです
1800年代後半に動物実験で胸骨圧迫により心臓のポンプ機能を維持できることが示されます
そして1892年にFriedrich Maassが人体においても胸骨圧迫が有効であることを報告しました
Taw RL Jr.
Dr. Friedrich Maass: 100th anniversary of "new" CPR.
Clin Cardiol. 1991 Dec;14(12):1000-2.
しかし普及には至らず、その後1960年になり、Kowenhovenらが除細動の実験中に胸骨圧迫の有効性に気づき
「閉胸式心臓マッサージ」
として改めて体系化したことで普及への道を歩むことになります
同時期に電気ショックによる除細動や人工呼吸も体系化されたので、1960年は近代CPRの夜明けとも言われます
KOUWENHOVEN WB, JUDE JR, KNICKERBOCKER GG.
Closed-chest cardiac massage.
JAMA. 1960 Jul 9;173:1064-7.
今では
「心マして!」
と言おうものなら
「心臓をマッサージしてどないすんねん!胸骨を圧迫すんねんや!!」
などと、正しい用語を普及することに余念のないおじさんがどこからともなく湧いて出て訂正してくれますが、そもそも心臓は開胸してマッサージするもので、同じ効果を狙って閉胸式心臓マッサージが生み出されたという歴史があるのです
やっていることは閉胸式心臓マッサージなので、心マと略しても命に関わるような問題は生じないと思います
とはいえ、市民に正しい方法を普及させるという文脈においては胸骨を圧迫するのだという点が重要なので、胸骨圧迫という語句を積極的に用いているのです
僕もそうしています
それにしても、マッサージ救命はないよな・・・