救命というと、救急車というイメージがつきものですが
救急車で来た人だけを救命するのではありません
題して
予定された救命!
もともと集中治療分野は術後のICUを管理する中で麻酔科医を中心に発達してきた分野です
なので、麻酔科医が行ってきたような周術期管理は「予定手術後の管理」ということで、予定された救命と言えるかもしれません(もちろん緊急手術もあるでしょうけど)
予定にあるから大変とか、予定にないから大変とか、その辺の差はあまりないように思います
救命は適切な全身管理によってもたらされるものですが、四六時中変化を見ておかねばならないのでやっぱり大変です
先日、肺気腫で肺がボロボロになってしまったという人が気胸になり受診されました
気胸とは肺に穴が開く病気です
肺は風船のような臓器なので、穴が空いたら空気が漏れます
漏れた空気は胸腔内に溜まって、肺を圧迫して肺が膨らめなくなってしまい、低酸素血症となり、ひどい時には心臓も圧迫して閉塞性ショックとなってしまいます
これは避けなくてはなりませんので、気胸になってしまった人にはトロッカーカテーテルというチューブを胸腔に挿入して脱気します
うまく脱気して肺が胸膜とくっつくと、傷が閉じて自然に治ってくれます
ところが
肺気腫が強い人だと、なかなか傷が閉じなかったり、肺が広がらなかったりと問題が生じます
チューブ1本で脱気できなければ、チューブ2本で脱気するという手もあるのですが、チューブを2本挿入しても脱気しきれないほど空気が漏れて肺が広がり切らない人もいます
こうなると外科手術となるのですが、肺気腫の人はもともと肺が弱っているので、手術の際に片肺喚起にした瞬間低酸素で死んでしまうかもしれません
実際に以前そういう限界の肺なのに難治性気胸になってしまった人がいました
いかにして乗り越えるかということで知恵を絞り、VV-ECMOを導入することとなりました
ECMOとは
Extracorporeal membrane oxygenationの略
体外循環を導入し、膜型人工肺で酸素化して再度体内に血液を戻すシステムです
静脈から脱血して静脈に返血するものをVV-ECMO
静脈から脱血して動脈に返血するものをVA-ECMO(巷でいうPCPS)と言います
今回はVV-ECMOで酸素化している間に手術をして、手術後に体が安定したら体外循環を離脱させる方針となりました
やはり結構肺はボロボロで、術後の肺炎の合併などもあり治療は難渋しましたが、無事その人は体外循環を離脱し、人工呼吸も離脱し、自らの力で呼吸できるようになりました
実のところ、執刀した呼吸器外科医も生存する方が難しいと思っていたようですが、集中治療の粘り勝ちです
最近、積極的に体外循環の管理も行うようになり、救命センターとしてのレベルが上がってきているなと感じています
また敗血症性ショック症例も増えており、管理の精度も向上してきていると実感しています
比較的若手が多い当院ですが、地道に一人一人の患者さんと向き合いながら、予定された救命にも緊急の救命にも尽力できたらと思います